ロックの毒

 養殖したフグには毒がないという。餌のせいだという。天然もののフグは毒を身にまとうことで生きてきた。
 ロックにはやはり多かれ少なかれ毒が必要だと思う。毒とは言わず、異端、いびつと言い換えてもいい。
 どこぞの公民館なんぞで、自然派フォークシンガーのコンサートを取材するが、ベタな歌詞で、メロディーも
 げっそりするほど貧弱なものが多くて、こんなのに「心洗われる」などという人々が存在することが信じ難い。

 で、そういう時は「毒」を聴く。このマニック・ストリート・プリチャーズの3rdアルバム「ホリー・バイブル」。10th記念盤が出た。リマスターで、特に低音が前にドンと出た。迫力が増した。しかも今回、うれしいのはアメリカ盤用のリミックスが丸々2枚目のCDに収録されたこと。曲によっては、メンバーが認める通り、英国通常盤よりメリハリがはっきりしていて、とても小気味いい。

 このアルバムは「毒」というより、尿酸結晶ようだ。刺々しいい。しかしその結晶はきらめいて美しい。そんな希有な作品だ。自分の中に、何かがよどんだとき、この結晶を注入する。痛みにも似た、怒り、悲しみが青臭く体を駆けめぐる。
 「心洗われる」。そうだ。福音だ。生ぬるい「傷舐め」音楽はいらない。ロックがほしい。